遷延性悲嘆症
遷延性悲嘆症は、親しい人との死別後、故人に会いたいという強い思いや、故人・死別へのとらわれが続き、学校、仕事、家事、人間関係などに明確な支障が生じる状態です。悲しみが長いだけで病気と判断されるわけではなく、症状の強さ、生活への影響、文化・宗教的な背景を含めて評価します。
期間の目安は基準によって異なり、DSM-5-TRでは成人12か月、子ども・青年6か月、ICD-11では少なくとも6か月です。ただし、強い苦痛がある場合は、期間を満たすまで相談を待つ必要はありません。なお、ペットとの死別でも深刻な悲嘆は起こりますが、これらの診断基準は人との死別を対象としています。
特徴
中心となる特徴は、亡くなった人への強い切望、または故人や死別について繰り返し考え続けることです。死を受け入れられない、自分の一部を失ったように感じる、思い出を避ける、感情が動かない、強い孤独や人生の無意味さを感じる場合もあります。子どもや青年では、死の状況へのとらわれ、登校の困難、残された家族と離れる不安として現れることがあります。
気分の落ち込みが生活全体に広がるうつ病や、恐怖を伴う再体験・過覚醒が中心となる心的外傷後ストレス症(PTSD)とは異なりますが、併存することもあるため、専門的な見極めが必要です。
どんな人がなりやすいの?
遷延性悲嘆症は誰にでも起こり得るため、性格の弱さや故人への愛情の深さだけで説明することはできません。発症リスクとの関連が報告されている事例には、子どもや配偶者・パートナーなど特に身近な人との死別、事故・災害・自死など突然または暴力的な死、相談できる人が少ない状況などがあります。
過去にうつ病や不安症(不安障害)を経験していることも関連要因の一つです。ただし、これらは発症を決める条件ではなく、当てはまらない人にも起こります。本人や家族を責めず、生活への影響を基準に支援の必要性を考えることが大切です。
どうしたらいいの?
まず、睡眠や食事、欠席・欠勤、人との交流、故人について考えている時間などを、記録できる範囲で整理してください。治療の目的は悲しみを消すことではなく、喪失の現実を少しずつ受け止め、大切な記憶を保ちながら生活を再構築することです。治療プログラムの内容には、悲嘆に関する心理教育、死別にまつわる記憶や考えの整理、避けている活動への段階的な取り組み、今後の目標や人とのつながりの回復などがあります。遷延性悲嘆に特化した心理療法や、認知行動療法の技法を用いる治療が中心です。注意点として、つらい記憶に一人で無理に向き合わず、精神科・心療内科などの専門家と進めてください。
まとめ
遷延性悲嘆症からの回復における成功は、故人を忘れることや、二度と悲しまなくなることではありません。悲しみがあっても、睡眠や食事、学校・仕事、人との関わりを少しずつ取り戻し、自分の生活を再び選べるようになることを目指します。薬物療法は悲嘆の中核症状に対する中心的な治療ではなく、併存するうつ病、不安症、強い不眠などを診察したうえで検討されます。強い苦痛が続く、日常生活を保てない、アルコールなどに頼る量が増えた場合は早めに相談してください。「自分も死にたい」と感じる、自分を傷つけるおそれがある場合は一人にならず、身近な人に伝え、救急を含む医療機関へ速やかにつながる必要があります。
こころの不調
行動面の不調