根こぎうつ病


根こぎうつ病は、現在の診断基準に定められた正式な病名ではありません。もともとは、戦争後の避難や移住などによって、住み慣れた土地、仕事、役割、人間関係といった生活の「根」を失った後の抑うつ状態を表す歴史的な概念です。災害、長期避難、望まない転居などの後にも、これに近い苦痛がみられる場合があります。診察の目的は名称を当てはめることではなく、症状と生活状況を整理し、うつ病や適応障害などを見分け、必要な生活支援と治療につなげることです。
特徴

根こぎうつ病と呼ばれる状態では、気分の落ち込みや無力感だけでなく、「自分の居場所がない」「以前の自分ではなくなった」と感じることがあります。不眠、食欲低下、疲労、集中力低下、人との交流を避けるなど、心・体・行動にも変化が現れます。事例として、避難先で生活できていても、友人、学校、地域での役割を失い、将来を考えられなくなるケースがあります。ただし、災害後の動揺は自然な反応でもあります。
生命の危険を伴う体験が繰り返しよみがえり、回避や強い警戒が続く場合は、心的外傷後ストレス症(PTSD)も含めた評価が必要です。
どんな人がなりやすいの?

性格ではなく、喪失の内容と現在の支援環境を確認することが大切です。
どうしたらいいの?

気持ちを無理に整理するより、住まい、食事、水分、睡眠、通院、服薬、経済面など、生活の基盤を整えることを優先して対応します。「眠れない」「学校へ行けない」「薬がなくなる」など、現在困っている内容を具体的にし、家族、学校、自治体、保健所、支援団体へ伝えてください。支援プログラムの内容は、生活支援、休養、環境調整、本人が希望する範囲での心理的支援、診断に応じた薬物療法などです。
回復支援を成功に近づける注意点は、つらい体験を無理に語らせず、飲酒で眠ろうとしたり、処方薬を自己判断で中断したりしないことです。
まとめ

根こぎうつ病は、生活の基盤や所属感を失った後の抑うつ状態を表す歴史的な言葉であり、独立した診断名ではありません。すべての悲しみを病気と判断する必要はありませんが、眠れない、食べられない、何も楽しめない、学校や仕事へ行けない状態が続く場合は、うつ病や適応障害などを含めた診察が必要です。死別後の強い苦痛が長期間続く場合は、遷延性悲嘆症についても確認します。
「死にたい」と考える、食事や水分が取れない、強い混乱がある場合は一人にせず、通常の予約を待たず早急に医療機関へ相談してください。
こころの不調